弁証法や絶対精神で知られている、ドイツの哲学者ヘーゲル。
ヘーゲルはカント哲学を批判的に発展させ、ドイツ観念論を完成させたと言われています。
しかし、「ヘーゲルの名前は聞いたことあるが、重要な思想については理解していない」という人は多いのではないでしょうか?
そこで今回の記事では、ヘーゲルの生涯や時代背景、ドイツ観念論や弁証法、絶対精神などのヘーゲルの主な思想について紹介します。
ヘーゲルが唱えた重要な思想について理解できるようになるので、ぜひ参考にしてください。
ヘーゲルとは
ここでは、ヘーゲルに関する基本的な知識、ヘーゲルの主な思想を確認していきましょう。
ヘーゲルの生涯
引用:いらすとや
ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel)とは、シュトゥットガルト出身の哲学者です。
1788年にチュービンゲン大学に入学し、神学を専攻、カント哲学や啓蒙思想などを学びました。
大学では、ドイツの詩人であるへルダーリンや、哲学者のシェリングなどと交流したと言われています。
大学卒業後はイエナ大学の講師、ニュルンベルクの中等教育機関ギムナジウムの校長などとして働き、1816年にハイデルベルク大学において正教授職を得ました。
1829年にはハイデルベルク大学総長に選出されるものの、1831年にこれらにより急逝しました。
ヘーゲルはドイツ観念論を完成させたと言われており、歴史哲学や美学、宗教哲学などに大きな影響を与えています。
ヘーゲルの主な著作には、『精神現象学(1807年)』、『論理学/大論理学(1817年)』、『エンチクロペディー(1817年年)』、『法哲学・要綱(1820年)』などが挙げられます。
ヘーゲルが活躍した時代
ヘーゲルが活躍した時代は、フランス革命やナポレオン戦争、産業革命など、社会的に大きく変革した時代でした。
フランス革命が勃発した当時は、ヘーゲルは友人たちと踊りまわって喜んだと言われています。
ヘーゲルはこのような時代において、歴史と哲学を結び付けた理論を発展させました。
ヘーゲルがどのような思想を論じていたのか、以下で重要な概念を確認していきましょう。
ヘーゲルの主な思想
ここでは、ヘーゲルを理解する上で重要な概念を紹介します。
ドイツ観念論
ヘーゲルはイマヌエル・カント(Immanuel Kant)の自由論を批判的に捉え、ドイツ観念論を完成させた人物と言われています。
カントのドイツ観念論
ドイツ観念論とは、18世紀後半〜19世紀で主流になった一連の哲学のことです。
カントから始まり、ヨハン・ゴットリープ・フィヒテ(Johann Gottlieb Fichte)、フリードリヒ・シェリング(Friedrich Schelling)によって展開されました。
ドイツ観念論では、自由が哲学の根源的な主題として捉えられました。
文献では以下のように説明されています。
カントが明確にした自律の発想は、人格の尊厳を何よりも大切なものとなした。 カントは人間を、自然の立法者であるとともに、自己自身の行為の立法者と見なしたのである。 |
カントは自由を獲得するには、外的拘束からの解放だけでなく、意志の自由(自律)が必要と主張しました。
このように、カントは自己の道徳法則に従って自発的に行動することを自由と捉えたのです。
参考:岡本裕一朗.教養として学んでおきたい哲学. マイナビ出版. 2019. p.129
カントの哲学については、以下の記事で紹介しています。
ヘーゲルのドイツ観念論
先ほど説明したように、ヘーゲルはカントの自由論を批判的に論じました。
具体的には、カントの自由観は主観的であると批判し、「理性や自由は客観的なものによって制度化されるべき」と主張したのです。
ヘーゲルも、人間の理性に全幅の信頼をよせ、自由を尊んだ。
しかし、ヘーゲルは、個人の内面的な自律性をよりどころとするカントの自由観や道徳かんを主観的と批判し、理性や自由というものは、現実の社会生活の中で客観的な法律や制度として具体化されるべきもの、と考えた。
ヘーゲルによれば、理性や自由がそこにおいて実現されるべき現実の社会は、歴史的に運動し変化するものである。
ちなみに、カントがプラトン主義者と見なされるのに対し、ヘーゲルは自分のことをアリストテレス主義者と見なしていました。
参考:岡本裕一朗.教養として学んでおきたい哲学. マイナビ出版. 2019. p.132
弁証法
弁証法とは、ヘーゲルが定式化した思考法のことです。
参考書には、弁証法について以下のように説明されています。
ある立場(定立)があれば、そこにはかならずそれに対立し矛盾するもの(反定立)がふくまれている。 それぞれの立場を生かしつつ両者の対立を解消する(止揚、アウフヘーベン)ことによって、より高い次元(総合)にいたる。 この正(テーゼ)・反(アンチテーゼ)・合(ジンテーゼ)の運動が、ヘーゲルのいう弁証法である。 |
つまり、弁証法とは相反する二つの要素(正・反)を認識することで、高いレベルの認識(合)に至る思考形式なのです。
以下で、具体例を使いながら弁証法について理解を深めましょう。
参考:岡本裕一朗.教養として学んでおきたい哲学. マイナビ出版. 2019. p.132
弁証法の具体例
ここでは「起床時間」について、弁証法を通じて考えてみましょう。
ある人は「早起きしたほうが健康的だ」という意見を持っています。
これを「正(テーゼ)」として設定しましょう。
そうすると、上記の意見に対する「反(アンチテーゼ)」は「夜更かししても健康的である」という意見になります。
お互いに主張し合い、議論を重ねることで、「自分の生活に合わせて睡眠時間を決めるべきだ」というように、より高次な結論である「合(ジンテーゼ)」に辿り着けるのです。
止揚・アウフヘーベンとは
弁証法を勉強している人の中には、「止揚・アウフヘーベン」の意味がよくわからないという人は少なくありません。
止揚・アウフヘーベンとは、相反する二者のどちらかを選ぶのではなく、お互いを掛け合わせることで高次元の解に引き揚げるプロセスのことです。
言い換えると、止揚・アウフヘーベンは、弁証法を実現するための過程を指します。
ヘーゲルは、よりよい解決策や解答を得られる止揚・アウフヘーベンを活用することで、最高最大の境地を目指そうとしたのです。
絶対精神
絶対精神はヘーゲルが提唱した概念の一つです。
ヘーゲルによれば、弁証法運動を繰り返すことで辿り着ける最終的な存在を意味します。
歴史は、精神(絶対精神)が自由な人間の活動を媒介にして、自己の本質である自由を実現してゆく過程であると考え、「世界史は自由の意義の進歩である」といった。
すなわちヘーゲルは、精神を単に個人的・主観的なものではなく、現実の歴史の運動ととらえ、自由についても、現実の歴史の中で実現されるべきものと考え、「世界精神」と名づけた。
ヘーゲルはこの世のあらゆることがテーゼ・アンチテーゼとなり、そこから誕生したジンテーゼに関しても、新たなテーゼ・アンチテーゼとなり得ると考えたのです。
こうして止揚・アウフヘーベンを繰り返すことで、絶対精神を目指せると主張しました。
参考:岡本裕一朗.教養として学んでおきたい哲学. マイナビ出版. 2019. p.132
まとめ
今回の記事では、ヘーゲルの生涯や時代背景、ドイツ観念論や弁証法、絶対精神などのヘーゲルの主な思想について紹介しました。
ヘーゲルは、カントから始まったとされるドイツ観念論を完成させた人物として知られています。
弁証法や絶対精神などの概念を提唱し、歴史をより良い世界へと近づくための過程と捉えていました。
ヘーゲル以降は、ヘーゲルらが行った理論的な体系化は現実世界に役立たないとして、マルクス主義が登場するなど、近代哲学から現代哲学へと繋がっていきます。
マルクス主義に関しては、以下の記事でわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
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