儒家の思想家である孟子は、性善説を唱えたことで有名です。
性善説とは、人間は生まれながらに善の性質を備えているという考えを指します。
しかし、「孟子がどのような思想を持っているのか」や「性善説や性悪説の違いは何か」など、疑問をお持ちの方は少なくありません。
そこで今回の記事では、孟子について、性善説や四端説、四徳、五輪などの孟子の重要な思想について紹介します。
孟子の考え方について理解したい方や、儒家の思想について知りたい方は、本記事を参考にしてください。
孟子とは
一般的に「孟子」といえば、儒家の思想家である孟子(人物)を指すこともあれば、孟子の言行をまとめた書物を意味することもあります。
ここでは、人物と書物の孟子について、それぞれ概略を確認していきましょう。
ちなみに、あまり馴染みのない漢字かもしれませんが、孟子の読み方は「もうし」です。
人物の孟子
引用:いらすとや
孟子(もうし)とは、中国戦国時代(紀元前5世紀〜紀元前221年)に活躍した儒学思想家です。
姓は「孟」、諱は「軻(か)」、字は「子輿(しよ)」と言われています。
中国春秋時代に起きた争乱により混乱していた社会を建て直すため、多くの思想家や政治家が登場しました。
これらの人々は「諸子百家(しょしひゃっか)」と称され、孟子もこのうちの一人として認識されています。
ちなみに諸子百家には、道家を説いた老子も含まれますが、老子の思想に関しては以下の記事で詳しく紹介しています。
孟子の生涯
孟子は紀元前372年ごろ、鄒の国(現在の山東省済寧市鄒城市)で生まれました。
孟子の父親は孟子が幼い頃に亡くなり、教育熱心な母親に育てられました。
当時、孟子は墓地の近くに住んでおり、葬式の真似事をするようになったため、母親は引っ越しましたが、引っ越し先が市場の近くであったため、そこでも商人の真似事をしたと言われています。
その後に引っ越した場所は学問所に近く、孟子はようやく勉強に励むようになりました。
この話は「孟母三遷(もうぼさんせん)」と呼ばれています。
さらに、「孟母断機(もうぼだんき)」と呼ばれる故事も語られています。
これは、学問を投げ出した孟子に対して、母親が「あなたが学問を投げ出すことは、私が機織りしている布を断ち切ってしまうことと同じだ」という話です。
孟子は、中国の思想家である孔子(こうし)の仁義の教えを引き継いだと言われています。
儒学とは?
儒学とは、孔子を開祖とする伝統的な学問のことです。
デジタル大辞泉(2023年11月13日閲覧)では、儒学について以下のように説明されています。
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日本には4、5世紀ごろに「論語」が伝来したと伝えられ、日本文化に多大の影響を与えた。
儒学、および儒教(儒家の思想)は、古代以来日本の政治制度を基礎づけたと言われており、孔子の言行録である「論語」の伝来もあり、日本文化に大きく影響しています。
書物の孟子
それでは、次に『孟子』がどのような書物であるかを確認しましょう。
デジタル大辞泉(2023年11月13日閲覧)によると、『孟子』とは以下のような書物であることが分かります。
孟子の言行や思想を記した書。
7編。 後漢の趙岐ちょうきが各編を上下に分けて注を加え、14巻とした。 宋代以降経書に数えられ、朱熹しゅきの「孟子集注」により四書の一つとして重んじられた。 |
いわば、『孟子』とは孟子の逸話・問答をまとめた書物のことです。
『論語』『大学』『中庸』の書物とあわせて「四書」と言われたり、儒家が重視する経書の総称である「十三経」と呼ばれたりします。
孟子の重要な思想
ここまで、人物と書物の孟子に関する基本的な情報を紹介しました。
ここからは、孟子を理解する上で重要な概念や思想を確認していきましょう。
性善説
性善説とは、孟子が主張した、「人間は生まれながらに善の本性をもつ」という考え方です。
孟子といえば、この性善説を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
参考書では、性善説に関して以下のように説明されています。
彼(孟子)によれば、人間が悪をなすのは感覚が外物の刺激によって欲をおこすからである。 つまり、悪の原因は人間の外にある。 これに対して人間の心にはもともと善悪を理性的に判断する良知と、悪をしりぞけ善をおこなおうとする良能がそなわっている。それゆえに、人間は生まれながらに良心をもつと考えられた。 |
例えば、「犯罪者が犯罪を犯すのは家庭環境が悪いからで、状況が違ったとしたら犯罪を起こさなかっただろう」という考えには、性善説の考えが読み取れます。
このように人間に備わっている基本的な性質を善と捉える考え方を「性善説」と呼ぶのです。
参考:佐藤正英. 改訂版 高等 倫理. 数研出版株式会社. 2012. p.51
性悪説
性善説とよく比較される概念が「性悪説」でしょう。
性悪説とは、中国戦国時代の思想家である荀子(じゅんし)が唱えた思想です。
「人間は生まれながらに善い性質をもつ」と考える性善説に対して、性悪説は「人間は生まれながら悪である」と考えます。
参考書を引用して、性悪説についてもう少し調べてみましょう。
「人の性は悪、その善なる者は偽なり(後天的な人為による矯正の結果である)」というように、人間は生まれつき欲をもち利をむさぼる傾向をもつ者ととらえられた。
したがって、欲をおさえないかぎり、争いはさけられず世の中は乱れるほかはない。
荀子はこのような考えを持っていたため、人々を規制すべきという「礼」を重視するようになりました。
参考:佐藤正英. 改訂版 高等 倫理. 数研出版株式会社. 2012. p.52
四端説
孟子の性善説を基礎付けるのが「四端説」です。
四端説とは、人間誰しもが四端(したん)を持っているとする考え方を指します。
四端とは、以下の4つの感情です。
- 惻隠(そくいん)の心:相手に同情する気持ち
- 羞悪(しゅうお)の心:自らの不正・悪を恥憎む気持ち
- 辞譲(じじょう)の心:互いに譲り合う気持ち
- 是非(ぜひ)の心:善悪を判断する気持ち
孟子はこの4つの心を成長させることで、より良い人間を目指せると主張しました。
四徳(しとく)
孟子は上記で説明した四端を拡充することにより、四徳を実現できると考えました。
四徳とは、仁・義・礼・智から構成される4つの徳です。
それぞれの徳は以下の四端に当てはまります。
- 惻隠の心→仁
- 羞悪の心→義
- 辞譲の心→礼
- 是非の心→智
前漢の儒学者である董仲舒(とうちゅうじょ)は、この四徳に「信」を加えた「五常」を提唱しました。
孟子はこの四徳が高まってくると、不動心である「浩然の気」が現れるようになり、これを備えた人を「大丈夫」と呼びました。
五輪
孟子は四徳とあわせて、以下の「五輪」も重要視していました。
- 父子の親:親子関係においては親しみや愛情が重要
- 君臣の義:上下関係においては道理が重要
- 夫婦の別:夫婦関係は平等であることが重要
- 長幼の序:自分より年上を尊敬することが重要
- 朋友の信:友情関係においては信頼が重要
孟子は儒教において、これらの教えを守ることが大切だと考えました。
まとめ
今回の記事では、孟子について、性善説や四端説、四徳、五輪などの孟子の重要な思想について紹介しました。
孟子とは、中国の戦国時代に活躍した儒家の思想家です。
性善説を唱えた思想家として多くの人に知られています。
四徳などの性善説の基本的な考えや、荀子が唱えた性悪説などを理解することで、より孟子の思想についての理解を深めることができます。
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