「功利主義とはどのような考え方?」
「ジェレミ・ベンサムとはどのような人物?」
と疑問をお持ちの方はいるのではないでしょうか。
功利主義とは、「最大多数の最大幸福」を目指す考え方のことです。
功利主義を唱えたジェレミ・ベンサムは、幸福は数値化できるものと捉え、この幸福の数を増やすことが重要であると考えていました。
今回の記事では、ジェレミ・ベンサムについて、功利主義の定義、カントの考える幸福、ベンサムのことば、功利主義において重要なキーワード、功利主義を修正したJ.S.ミルについて紹介します。
功利主義やジェレミ・ベンサムに興味がある方はぜひ参考にしてください。
功利主義とは
イギリスの哲学者であるジェレミ・ベンサムが唱えた功利主義。
「功利主義とはどういう思想なの?」と疑問をお持ちの方は少なくありません。
ここでは、功利主義を唱えたジェレミ・ベンサム、およびジェレミ・ベンサムの基本的な考え方を確認していきましょう。
ジェレミ・ベンサムとは
ジェレミ・ベンサム(Jeremy Bentham)は、「最大多数の最大幸福(the greatest happiness principle)」を目指す思想の功利主義を打ち立てた人物です。
1748年、ベンサムはイギリス・ロンドンの裕福な家庭に生まれました。
ウェストミンスター・スクールに入学した後、父親の希望に従ってオックスフォード大学のクィーンズカレッジに入学しました。
リンカーン法曹院で法律の実務を勉強し、1769年に弁護士資格を取得しましたが、法律や政治の原理的な研究に傾倒したと言われています。
主著には『政府論断章(1776)』や『道徳と立法の原理序説(1789)』などが挙げられます。
功利主義を簡単に説明すると?
それでは、そんなベンサムが唱えた功利主義は、どのような思想なのでしょうか?
功利主義を簡単に言い表すと、「利益や幸福を追求する行為が道徳的に正しい行為である」という考え方のことです。
功利とは「有用性」、いわば「何かしらの行為によって人間が得られる快楽」を意味します。
参考文献では、功利主義について以下のように説明されています。
ベンサムは、道徳的な感情や宗教的な感情も、けっきょくは快楽を求め苦痛をさけようとする人間の本性から生まれると考え、快楽の追求を積極的に容認した。 彼によれば、幸福とは快楽の増大あるいは苦痛の軽減であり、幸福を増大させるものを善と見なして是認し、幸福を減少させるものを悪と見なして否認すべきなのである。 |
ベンサムはこの考え方を「功利の原理」と呼んでいます。
貴族的な価値観が強い存在感を示していたイギリスで、各人の平等の幸福を追求すべきという民主主義的な考えが広まったのです。
参考:佐藤正英. 改訂版 高等 倫理. 数研出版株式会社. 2012. p.146
カントの考える幸福
引用:いらすとや
イマヌエル・カント(Immanuel Kant)とは、現在のドイツ、東プロイセンの首都、ケーニヒスベルクに生まれた哲学者です。
ベンサムは「個人が幸福を追求することは道徳的に善い行為である」と考えたのに対し、カントは快楽に従うのではなく「為すべし」行為に従うことが重要であると考えました。
例えば、重い病を抱えた患者に対し「あなたは良くなります」と患者が喜ぶことを伝える(功利主義の考え)のではなく、「あなたは重い病気で完治の見込みはありません」と事実を伝えることが義務だ(カントの考え)と考えます。
このように哲学者によって幸福に対する理解が異なることが分かります。
カントの思想については、以下の記事で紹介していますので、興味のある方はチェックしてみてください。
ジェレミ・ベンサムのことば
ベンサムが実際にどのような思想を持っているか、もう少し深く理解するために、参考文献に掲載されているベンサムのことばを確認してみましょう。
自然は人類を二人の支配者の下においた。 それは快楽と苦痛である。… ことばの上では快楽の王国を脱すると主張する人も、実際にはつねにこの王国の臣民にとどまっている。 功利の原理はこの隷属の事実を認め、この事実を、理性と法によって至福の建物を建設するための体系の基礎としてうけいれるのである。 『道徳と立法の原理序説(1789)』 |
このようにベンサムは、人々が選択する際は「快楽」と「苦痛」が全てであると考えました。
参考:佐藤正英. 改訂版 高等 倫理. 数研出版株式会社. 2012. p.146
功利主義において重要なキーワード
それでは、功利主義についてより理解を深めるために、以下で重要なキーワードを確認していきましょう。
快楽計算
ベンサムは、功利主義を唱えた際に「快楽や幸福は数値化できる」と考えました。
このことを「快楽計算(calculation of pleasure)」と言います。
ベンサムによると、人間の幸福を計算することで比較することが可能になり、社会全体の幸福を算定できるというのです。
『道徳と立法の原理序説(1789)』において、ベンサムは以下の7つの項目が快楽計算を実施する際に必要になると説明しました。
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ベンサムはこの計算によって数値化される快楽の量が、多くなればなるほど社会全体が幸福に包まれると考えていました。
功利主義を修正したJ.S.ミル
ベンサムが唱えた功利主義を受け継いだ人物がJ.S.ミルです。
以下で、J.S.ミルの基本的な情報とJ.S.ミルが唱えた功利主義を確認していきましょう。
J.S.ミルとは誰のこと?
J.S.ミル/ジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill)とは、1806年にイギリス・ロンドンで誕生した哲学者、政治哲学者、および経済思想家です。
J.S.ミルの父親であるジェームズ・ミルも哲学者であり、ベンサムと交流があったと言われています。
J.S.ミルは学校へ行かず、幼少期から父親から厳格な教育を受けていたため、12歳の時点で大学の学位を取得できるほどの能力を持ちあわせていました。
父親と同じくイギリス東インド会社で働き、1865年にはロンドン・ウエストミンスター選挙区選出の無所属下院議員に選出されました。
J.S.ミルはリベラルな思想を持っており、性別は政治的権利とは無関係であると主張し、婦人参政権や個人の自由の問題に積極的な姿勢を見せました。
主著には『経済学原理(1848年)』や『自由論(1859年)』、『功利主義(1861年)』などが挙げられます。
J.S.ミルが修正した功利主義
それでは、J.S.ミルはベンサムの功利主義をどのように修正したのでしょうか?
J.S.ミルはベンサムが考えた「快楽計算」の考えを受け入れることができず、快楽の「質」に焦点を当てていました。
J.S.ミルは「満足した豚であるよりも不満足な人間である方がよく、満足した愚か者であるよりは不満足なソクラテスである方がよい」と述べています。
J.S.ミルはこのように幸福の質を重視したのです。
加えて、良心的な感情は他人の幸福をも願う感情として重要であると考えました。
参考:佐藤正英. 改訂版 高等 倫理. 数研出版株式会社. 2012. p.147
まとめ
今回の記事では、ジェレミ・ベンサムについて、功利主義の定義、カントの考える幸福、ベンサムのことば、功利主義において重要なキーワード、功利主義を修正したJ.S.ミルについて紹介しました。
ジェレミ・ベンサムは貴族的な価値観が強かった当時のイギリスにおいて、平等な幸福を目指すことが重要と考え、功利主義を打ち出しました。
しかし、J.S.ミルは幸福を数値化することは難しく、幸福の質を重視すべきだと考えました。
ただ、現在は人間が望むものは快楽だけではなく、個人によって苦痛や快楽の感じ方が大きく異なるなどとして、功利主義の弱点も指摘されています。
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